2.Clearing a Space……気掛かりの「棚卸し」


 フォーカシングの第1のステップ(ジェンドリンはこれを「第1の動き[1st Movement]」と呼びます)は、 clearing aspace(空間づくり)と呼ばれています。

 これは、今の自分が健やかな、申し分のない気分でいることを妨げている、「気になる事柄」や「漠然とした身体感覚」や「気分そのもの」を取り敢えず1つずつ確認していき、心の中の片隅に積み上げていくプロセスのことです。
 そのことによって内面を整理し、取り敢えず一息つけるだけの心の余裕を取り戻すためのものとも言えるでしょう。

 

  *取り敢えず一息つくために気掛かりを脇に積み上げる

 あなたが引っ越しや大掃除で、部屋中の荷物の整理をしている光景を思い浮かべて下さい。恐らく、その作業が佳境にはいると、あなたの部屋は、床や畳がまるで見えなくなるくらいにあちこちにものが散乱する、まさに「足の踏み場もない」凄惨な状況を呈することでしょう。(……え? 「普段から自分の部屋はそんなものだ」という人もいる? 私も結婚までは実はそうでした(^^;))
 作業がなかなかはかどらないことにため息をつきながら、あなたは一休みして食事をとろうとします。ところが、そもそも座りこむ場所すらどこにもないという場合もあるでしょう。あなたは、取り敢えず、身体の回りにある足元のあたりの荷物を別の場所に積み上げて、取り敢えず手足を伸ばせるくらいの空間を畳の上に生み出そうとするかもしれません。そのためだけでも、あなたは、一度畳の上に積み上げた、何十冊もの本を改めて移動させる必要があるかもしれません。それだけでも一仕事です。
 でも、疲れたあなたは、ほんのしばらく横になりたいという欲求に突き動かされて、取り敢えず荷物の一部を脇に積み上げなおすでしょう。

 やっと、ともかく足を延ばしてごろんとなれるだけの身の丈の空間ができました。
 あなたは当然それだけで部屋の整理が終わったのではないことにも気がついています。取り敢えず脇に積み上げた本の山が、最終的な置き場所ではなく、再び移動させねばならないことも知っています。
 でも、数時間ぶりに手足を伸ばして横になれたことにあなたは少しほっとします。

 ちょうどこれと似たようなことを、心の中の「取り敢えずの」整理としてまずやってしまうのが、フォーカシングの第1の動き、clearing a spaceです。

 

  *Clearing a spaceの進め方

 clearing a spaceのおおよその段取りは次の通りです。

  1. まずは、楽に座れるような場所で、無理のない姿勢をとってみて下さい。目は開けていても閉じていてもかまいません。
      
  2. 自分の内側の身体の感じ、漠然とした気分のようなものに向かって、

    「今、自分は十分に申し分のない、健やかな、OKな気分でいられるだろうか」

    と問いかけてみてください。この時、普段何を悩んでいるかとか、先ほどまでのひどい気分の時どうだったかを思い出そうとするのではなくて、あくまでも今の実感を大事にして下さい。
      
  3. 恐らく、たいていの場合、完全に申し分のない、すっきりした気分であることはまずないと思います。さほどたたないうちに、身体の方から、まるで抵抗したり抗弁したりするかのようにして、何らかの抵抗感不全感・違和感のようなものが返ってくるでしょう。まるで、「いや、とても申し分がないとまでは言えないよ」と身体が態度で示してくるかのようにして。

            身体から何の返答もない場合

  4. 次に、そのようにして感知できた、「今の自分が健やかな、申し分のない感じでいることを妨げているもの」を、一つ、またひとつと確認していきます。

    一度に多くのものを一気に「並べ上げる」のではなく、気分や体の中から自然と浮かび上がるものについて、一つずつ、以下の4.-9.の段取りで丁寧に受けとめていくつもりになる方がいいです。
    *例えば、「何かに急かされるような感じが強くあって、とても安らかな気分とは言い難い」ということがまず浮かんでくるかもしれません。あるいは、「何か落ち込んでいる気分のようなものに今は包まれている」などのような、漠然とした気分体調、情動のようなものそのものをひとつずつ確認していくこともできます。

    *あるいは、「今の自分がすこやかな気分でいられないのは、きのう友人の言葉に傷ついた時の感じが今も<後を引いて>いるからだ」「数日後の面接試験のことが頭から離れない」などと、気掛かりの種となる事柄自然と想起されることもあるでしょう。

  5. そのような気持ちや事柄がひとつ浮かび上がってきたら、まずは「ああ、なるほど、『これ』がある」というふうに取り敢えず確認するかのような受け止め方をしてあげてみて下さい。
      ちょうど、たまたま廊下で出くわして「おはよう」とあいさつした同僚やクラスメートが、何か自分に相談したげに二言三言話しかけたけれども、自分も忙しくて話を聞く余裕がない時に「わかった、詳しいことは後で聞くからね。約束する」と、取り敢えず別れるくらいの受け止め方を、自分の中から浮かび上がってくる気掛かりや感じそのものに取っていくのです。
     フォーカシングの著名なトレーナー、アン・ワイザー・コーネルは、このようにして、自分の内側から生じてくるものを受けとめることを、acknowledgingと読んでいます。訳しにくい言葉ですが、「取り敢えずその存在を認めてあげる」「気づいておいてあげる」というあたりでしょうか。
     
    この時点では、その時自分の中から浮かんできた気持ちや事柄の中に分け入ってしまう(「深入り」してしまう)必要はありません。
      多くの場合、私たちは、気になる事柄や感情の中に一気に「つっこんで」行って、あれこれ思い悩むことこそが「前向きな、問題に<直面>する悩み方」であると思いこみがちです。しかしここで求められているのは、そのようなことをすることではありません。
     むしろ、「このこと(この感じ)については、詳しく見ていけばいろいろありそうだけど、必要あればあとで更につっこんで相手をしてあげることとして、今は『ああ、<これ>がある』と確認してあげておくだけにしよう」というぐらいの対応に留めるのでいいのです。

  6. そうやって気掛かりや感じをひとつ確認したら、次に

    「では、そいつを別にすると、あとは、今の自分は、十分に健やかで申し分のない感じでいられるかな?」

    改めて内側に問いかけます。

      *この「別にすると(except it,)」というのは、「先ほど浮かんできた気掛かりや気分が解消されていないのはわかっている。でも、取り敢えずそのことを棚上げにしたら、あとはどうだろうか」「仮にその気掛かりや気分が解消したとしたら、今の自分は申し分がないだろうか」などと、ひとつ積み出す度ごとに、他に何かないかどうか自分の実感に改めて確認・点検してみる……というあたりの意味に理解していただいていいです。

  7. このような再度の問いかけの結果、内側から新たに浮かび上がってきた気掛かりや感じについても、5.と同様に、その存在を取り敢えず確認して、「認めてあげた(acknowledge)」上で、6.と同様に、「それもまた別にすると、あとは、十分に健やかで申し分ないかな」と、改めて内側に問いかけます。
       
  8. このあとも、気掛かりや、感じが自分の中からひとつ浮かび上がる度に、5.6.の段取りを繰り返していきます。

     *こうした際に、気掛かりや不快感の程度の差を気にすることなく、大きいものも、小さなものも、浮かんできたままに、一つずつ「確認してあげて」は脇に置くというプロセスを丁寧に往復し続けることが大事です。
      このようにして、自分の実感に照合しながら、ひとつひとつ確認していくと、自分が普段から思っているよりも遙かに多くのことが、今の自分を健やかな気分でいることを妨げるものとして自分の中に感じられて「いた」ことに驚かされることがあります。一見些細に思われることが、今の自分を結構振り回していることに気付ける場合もあるでしょう。
     これはまさに気掛かりの「棚卸し」というべきでしょう。いわば、一つ一つの気掛かりや不全感を丁寧に再確認する「棚卸し」をした上で、取り敢えず「棚上げ」にするのです。

  9. こうして、自分の中の気掛かりなことがらやすっきりしない感じを一つ一つ脇に積み出した結果、「こういうのをすべて別にすれば、あとは申し分のない感じでいられる」というところまで行き着けたら、その結果として自分の中に生じる、ある種の余裕ある空間の感覚、一息ついたかのような感覚を、しばらく大事に味わってみて下さい。

             すべての気掛かりや感じを積み出したつもりでも
              申し分のない感じに行き着けない場合

     もちろんあなたは先ほど積み出した問題や気分がまだ解消していないことはどこかで気がついています。そのひと息つける区画の外側には未解決の課題や感情が山積みかもしれません。
     (もとより、そうやって取り敢えず脇に積み出すだけで、想像以上に心と体の安堵感が取り戻せ、まさに「自分を取り戻せた」感じとなり、取り敢えずの内面の安定を確保できてしまう場合もあります)。


3.自分の中の「それ」と ”一緒にいられる” 関係づくり


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